AWARD


最優秀賞

 片田日菜子:原爆と、

 

片田さんの祖母は、原爆投下の当時5歳。年々減り続ける被爆者約11万人の中の1人です。祖母の話に心を打たれた彼女は、幾度も広島に足を運び、被爆者や関係者の声を集め、戦時体験を直接聞くことのできる最後の世代としての重い責任に気づき、そしてこの難しいテーマに果敢に挑みました。これまでに戦争の悲劇を伝えた数多の表現とは異なり、一見POPに整理されたようにも見えますが、同時代の人々に伝えるための表現や仕掛けにこだわり続け、彼女としてのリアルを貫き通したその仕事量をGD学科として高く評価しました。片田さんはデザイナーとして、東京のテクノロジーサービス企業に進みます。この作品のように、誰かのために行動する気持ちを忘れないでください。
 

中山ダイスケ 教授 評
 

 

優秀賞

 髙橋静和:ゼブラの旅とぽぼすの星

 
 

近年、脳科学の分野では、モデル生物であるゼブラフィッシュによる「手綱核」の能動的回避行動が研究され、「恐怖(phobia)」に対する防衛的反応についての行動、学習について解明されようとしている。 髙橋さんはそのことから「恐怖からの回避を正しく制御しようとすること…それはまさしく知的好奇心によって対象物の研究を深めていくこと」ではないかと考えるようになった。 こうして、主人公であるゼブラは「ぽぼす(phobiaの語源)」の星で数多くの恐怖体験をクールに受け止めながら、遊泳を続けていく。 一方、画面上の特色として、デザイナーであるオトル・アイヒャーの黄金比を彷彿とさせるプロポーションと、 また、浮世絵由来の木版画を思わせる空気感、色調が組み合わさり、そこに唯一無二の世界が展開されることになった。
 

近藤一弥 教授 評
 

 

 深瀬奈緒子:Universe in a Pot

 

壺というと、すぐに何を思い浮かべるだろうか。 とても高価な骨董品的価値を持つ壺、考古学的な価値のある出土品の壺… いずれにせよ、新しい美的価値の創造に立ち向かおうとする美大生にとっては、壺は少々厄介な代物である。 では、絵画の歴史の中で壺はどのように描かれてきたのだろうか。 二次元の平面の宿命として、その実用性からも、物的価値からも切り離された壺は、その時代時代の美的表現のなかで、一体何を担ってきたのだろうか。 そのような興味から、深瀬さんは、絵画からいくつかの壺を一様に取り出し、彼女独自の方法で並べてみることにした。 そして、彼女はそこに「壺中天=Universe in Pot」を見るという。 なるほど、円形で囲まれ、半透明に可視化されたそれぞれの壺は、時代を超えてつながる、宇宙の入り口のようにも見える。
 

近藤一弥 教授 評

 

 

 

 佐野萌美:FRooTS

 

佐野さんの実家は長野の果樹農家です。彼女にとっては身近すぎた果物ですが、ある日「先生、果物は漢方です、薬です。」と、身体中に果物が配置された謎の人体図を持参したところからこの制作が始まりました。あたりまえだと思っていたものへの意識が鮮やかに変わる瞬間でした。そこから紆余曲折を繰り返し、これまで見たことのないフルーツのコンセプト提案が生まれました。一つのひらめきを様々なモデルで試し、何度も作り直しながらも研究の根幹が決してブレない姿勢、そしてデザインへの意識の高さを評価しました。彼女は春からデザイナーとして、東京のデジタルサービス企業に進みます。卒業しても柔らかな目線を忘れないで、果物のような身体に優しいサービスを創ってください。
 

中山ダイスケ 教授 評

 

 

 

 

山形県内唯一の河北町にある小さな動物園。人によって傷ついた動物や、保護された動物たちを伝えるため、一体一体の動物たちのサイン計画やグッズ展開によるリブランディング。現地でのリサーチと河北町役場、地域の産業との話し合いや協力によるグッズ展開。実現していくことで地元社会との結びつきを作ろうとしていることが感じられます。丁寧に愛着を持てるかわいらしい動物たちのデザインが動物園の特徴を引き立てています。卒業後も実現を目指して、山形に留まり動物園のブランディングは賞賛に値します。大学で学んだ知識と技術力は、後輩たちにとって素晴らしい模範となるでしょう。卒業後もそのデザインの力を駆使して活動していくことを期待しています。
 

萩原尚季 准教授 評

 

 

 

 石山怜奈:かほくどうぶつえん


 岡崎ちひろ:きらわれモンの生活図鑑

 

日常の身近な場所で見かける小さくちょっと不快で恐怖を感じさせる生き物たち。
岡崎さんはそんな生き物たちをゲームをしながら見つけ、その生態を学べるデジタル図鑑を作りました。
岡崎さんはこの生き物たちを親しみやすく、ふっと笑えるキャラクターにして、それらの生態をユニークなアニメーションで表現しています。
笑いながら親しみを持ち、楽しく詳しく学べます。作品は屋外、屋内と二種類ありユーモアある内容としっかりと作り込んだところを高く評価しました。
岡崎さんはもともとユニークな視点で物事を観察できる人です。
この観察力とユニークな発想、また根気強く制作する姿勢はこれからデザイナーとして大いに活かされることでしょう。
 

澤口俊輔 教授 評
 

 

学科セレクト

 伊達葵:心配性の日常かるた

 

生物学的にみた日本人の特徴に、不安遺伝子の高保有率が挙げられます。不安や心配を感じやすい遺伝子を有する日本人が8割であるのに対し、アメリカ人は5割未満と言われています。この作品は、それだけ多くの日本人に共感を呼びながらも、「心配性」という限定された切り口を共存させた、独創的なかるたです。コミカルに慌てふためくキャラクターの日常を通じて、共通の話題で盛り上がることのできるコミュニケーションをデザインした伊達さん。不安性を“慎重力”と“向上心”に変えてきた彼女が詠む、46音のストーリーに、読み手も取り手も、気がつけば不安が笑いに変わっていることでしょう。卒業後、伊達さんは仙台の会社でデジタルクリエイターとして働きます。

加藤弥生 准教授 評
 

 及川けやき:AIcontact

 

ここのところの生成AIの進化は目覚ましいものがある。 及川さんは、AIによるシンギュラリティ(技術的特異点)をどう乗り越えるかという問に対して、なんとAI専用の可視化されたコミュニケーションツールとしてのコンタクトレンズを提案する。 少し古臭いの解決策のようにも感じるが、実装が現実的がどうかは別として、意外と的を得ているのかもしれないと思えてくる。 現在から未来を予測をしようとすると、当たり前だが、結局は言葉によって予測しうる、今に続く未来を語ることになってしまう。 実際には、もっと言葉によらない、パラダイムシフトした予測不能な状態で未来はあるのだろう。 「目は口ほどにものをいう…」 文字通り、手近に言葉を超えた「アイコンタクト」でのコミュニケーションによる新たな世界が、そこにないとは言い切れないのである。

近藤一弥 教授 評
 

 手塚由基:RAMEN&JAZZ

 

大学生になると時間やお金は、自分で管理しなければなりません。大人の入口に差し掛かっているのです。 この作品は、ラーメンとジャズ、この一見、関係のないものに共通性を探っています。 日本で広まった時期、その一回性、多様性、夜、そして、大人の世界の入口。 これらを比較検討し、ダイアグラム化することで、二つの世界の親和性に気づいていきます。 手塚君が粘り強くこの作品に取り組んだ経験は、東京でデザイナーとしての励みになっていくでしょう。

竹左紀斗 教授 評
 

 若杉佳央:synchronize

 

ステッチは、布の表面に模様を刺繍する時、裏面にも模様ができています。私たちはそれを見ていても、見なかったことにしがちです。それは私たちの暮らしを見ているようです。 ステッチの面白さは、表面は同じ模様でも縫う順番を変えることで、異なる裏面が現れてくることだとし、日常生活に潜む、これらの関係性について着眼していきました。 つまり、表はAでも裏には無数のパターンが存在しているのです。 若杉さんが粘り強くこの作品に取り組んだ経験は、東京でデザイナーとしての励みになっていくでしょう。

大竹左紀斗 教授 評
 

 吉村多恵:POP BORN!

 

この世界を教育的、教養的に見るものではなく、日常世界という池に小石を投じてみる。どこでどんなゆらぎが生まれるだろう。 もっと重要な思想とかテーマとかはないのか、という人もいるだろう。 ものごとをすぐ経済で考える人に、それが多い。何か役に立つもの、何か得になるもの、何か言葉で説明できるものだけを求める人は、どうしても言葉の項目で見ようとする。でも言葉というのは目の粗い笊みたいなものだから、気持ちなんて形のないようなものは全部笊の目からこぼれ落ちる。言葉の笊の中には何も残らない。 吉村さんが粘り強くこの作品に注ぎ込んだユーモアは、放送局でデザイナーとして働く励みになっていくことでしょう。

大竹左紀斗 教授 評
 

 齋藤美玖:きせかえアライグマ

 
齋藤さんは自分のアイデンティティーをテーマに卒業研究を始めましたが、自身の内面と向き合うことは苦難の連続でした。しかしある時、ケロッと開き直って描き始めたのがこの「きせかえアライグマ」です。彼女らしいと感心したのは、他人を羨ましがって暮らしていた主人公のアライグマが、自分自身を発見し大きく両手を広げた色鮮やかなクライマックスシーンを真っ先に描いたこと。彼女には自身のコンプレックスという暗闇の先にある、彩りに満ちた光がはっきりと見えていたのでしょう。齋藤さんはデザイナーとして東京のWEBデザインの会社に進みます。今日も森で洗濯を楽しむアライグマのように、彼女らしさを貫いて欲しいと願っています。

中山ダイスケ 教授 評

 

 

 星みゆき:シャーペイと僕

 

星さんは、認知症だった祖母の記憶から、「老い」というものに強い関心を持っていました。「老い」をテーマに卒業制作に挑むという難題の中、当初は様々なモノの皺(しわ)を作ったり集めたりと、近視眼的な「老い=皺」というシリーズを制作していましたが、ある時から「老いることは素敵なこと」という俯瞰した視点を得て、主人公の少年に自分を重ねた物語を描きました。文字や説明が一切ない壁絵本のような不思議な作品は、想像しながら読むという魅力に溢れています。星さんは今春からデザイナーとして東京の大手通販アパレル企業に進みます。老いも若きも自由に装いを楽しめる、素敵な未来を期待しています。

中山ダイスケ 教授 評
 

 大矢薫:くろいひと

 

「わたしが しおれた はなに なったとき そのひとは あらわれる」。日常の生活の中で、人々はそれぞれに悩みを抱え生きています。時に追い詰められて誰かに助けを求めた時、そっと寄り添ってくれる人。大矢さんはただ静かに寄り添って側に居てくれるそんな人を「くろいひと」と名付けました。深みのあるオイルパステルの色味と深い闇を表すようでいて、なぜか暖かさを感じる「くろいひと」が織りなすわたしとの関係。それはもう一人の「わたし」であり、静かに見守ってくれる存在なのです。 横長の絵本には、静かに佇む「くろいひと」。それは静かでただただ暖かい眼差しでわたしを見てくれているようです。大矢さんは卒業後は絵本作家として活動していきます。

田中康博 教授 評
 

 狩野春佳:モノの生態

 

私たちは「便利」がとても好きです。そして、いろいろな道具を日常生活の中で使っています。狩野さんはそんな便利な道具、モノたちの思いをオムニバスのアニメーションで表現しました。健気に一生懸命頑張るモノたち。少し苛立つモノたち。真面目すぎて滑稽にも見えるモノたち。そんな道具たちの役に立ちたいという想いを、優しい眼差しで見つめ、柔らかなユーモアで包み表現しました。全部で20編のアニメーションはシンプルな線画と色使いが美しく、絶妙な間と効果的な音で軽妙な笑いを生んでくれます。ふふふっと、湧き上がる笑いは、疲れた毎日の肩の力を抜いてくれるはずです。狩野さんは4月から山形の企業で技術職として働きます。

田中康博 教授 評
 

 岩城詩音:わたしのはなしを聞いてください

 

私達が学校で使っていた文房具。短くなって引き出しの隅に置き忘れられた鉛筆、丸く薄汚れてしまった消しゴムなど。彼らの頑張ったその証しが、その後の悲しい運命を導いてしまう文房具達の人生。岩城さんは、この理不尽さを5つのストーリーで展開し、絵本として表現しました。漫画的手法を用い、あえて感情を出さない淡々とした語り口で物語は進行します。「わたしのはなしを聞いてください」と、文房具たちが自分たちの半生を語り始めると、読者には学校での思い出が蘇ります。文房具達の役割を全うした誇りを、優しい目線で表現した作品はとても暖かい気持ちにしてくれます。岩城さんは仙台の広告代理店でデザイナーとして働きます。

田中康博 教授 評
 

 髙橋愛:HIDE

 

髙橋さんの作品は、擬態生物の生存戦略にインスパイアされた「隠れて生きる」というテーマで描かれたイラストレーションです。ひっそりと平和に生きるというテーマは、現在の情報社会において非常に共感できる内容です。連作の5枚ポスターは、圧倒的な画力で自然環境にひそかに溶け込む少女たちを見事に描き出しています。また、少女たちの表情や髪の流れは、光や空気感までを繊細かつ丁寧に表現されています。これまで描き続けてきたイラストは、きっと隠れることなく生きる糧になっていくでしょう。髙橋さんは世界的に有名なゲームタイトルを多数手がけているゲーム業界に進みます。より多くの人々を魅了する新しいゲームを楽しみにしています。

萩原尚季 准教授 評
 

 米野由華:non frame

 

例えば、「赤」という色の名前の背後には、実在する無数の近似色があります。それぞれの色には個性があり、「赤」に対する自由な想像も含まれます。また、「男は青、女は赤」という古い慣習から、現代人の精神的な性別と色の関係性に興味を持ち、その「内なる性別の色の移ろい」をインフォグラフィックと参加型アートで表現しました。丁寧にリサーチしたアンケート結果を基に、濡らした紙にカラーインクを一滴ずつ落とし広がっていく滲みの偶然性を活かして、豊かな色彩のグラデーションを自作のライトビュアーで展示しています。米野さんは4月から山形の企業で働く予定です。新しい表現の可能性を模索し、粘り強く卒業制作に挑んだ経験は、今後の社会人生活でもきっと活かされることでしょう。

望月孝 教授 評
 

 佐藤絵美:ドラッグストア マインルド

 

人は知らず知らずに先入観や偏見、偏った考えで物事や人を判断しがちです。
このような何気ない人の思考をテーマに佐藤絵美さんはドラックストアにあるような商品に見立てたユーモアあるデザインを作りました。
ちょっと立ち止まり、手に取ってみる。とてもユニークですが、ハッとさせられたり、本当にこんな商品があれば試してみたい、
あの人にはどうだろうと思わせるものもあります。パッケージは商品を意識したデザインでよく出来ており、商品の裏に記載されている説明も細かくユーモアを持って書かれています。春からデザイナーとして働く佐藤さん、ハッとさせるアイデアをこれからデザインの現場でも発揮してほしいです。

澤口俊輔 教授 評